講演会および合同委員会・情報交換会を実施しました。

一般社団法人日本弁当サービス協会は、7月22日に東京都千代田区湯島の東京ガーデンパレスで講演会・合同委員会および情報交換会を開催しました。講演会では、一般社団法人食品冷凍技術推進機構の代表理事であり、東京海洋大学名誉教授である鈴木徹氏が「作りたてを提供するための食品冷凍システム技術」と題して講演を行いました。また、合同委員会・情報交換会 懇親会では、米価の値上がり、人件費の高騰など急激に変化する弁当サービス業界について、各社の対応策などについて濃密な意見交換が行われました。

講演内容の概要は次のとおりです。

「作りたてを提供するための食品冷凍システム技術」日弁協主催講演会
一般社団法人食品冷凍技術推進機構代表理事(東京海洋大学名誉教授)鈴木 徹 氏

コロナ禍以降、中食需要の高まりで冷凍食品の売り上げが大きく伸びています。私は2023年3月に冷凍技術の普及・発展に貢献するため、一般社団法人食品冷凍技術推進機構を設立しました。本機構は「私たちは、冷凍技術の普及・発展により食の課題解決に貢献します。」を設立目的に掲げ、食品冷凍技術に関する情報提供、人材育成、試験研究開発、事業支援活動を行っております。主な事業として、食品の冷凍技術に関わる試験・研究開発、人材育成、技術指導を行っております。本日は弁当製造などを行っている皆さまに「作りたてを提供するための食品冷凍システム技術」についてご紹介いたします。

冷凍食品の美味しさの向上と技術

日本の冷凍食品は60年以上の歴史がありますが、最近の冷凍食品は「とても美味しい」という声をよく聞きます。どのように冷凍技術が進歩したのでしょうか。日本の冷凍食品は1920年に北海道に冷凍工場が建設され、鮮魚を冷凍して販売したことに始まるといわれます。冷凍食品の大量生産・拡大期には大量調理装置が無く、工業製品用装置の流用に過ぎませんでした。その後、大量生産調理装置が充実し、物流網も整備され、長期保管・長距離輸送が可能になり、一度に大量生産してストックができるようになりました。生産を消費地の近くで行う必要がないため、食品の生産規模が飛躍的に大きくなり、コストダウンにつながりました。冷凍再現性を向上させるため、プロセスの組み立てを見直し、前処理やレシピの工夫をすることで品質が向上していきました。また、原料の選択も冷凍に向いているものを選ぶなどの工夫も進められてきました。

冷凍品の美味しさを作り出す科学

冷凍食品が美味しいのは、システムとしての食品の冷凍技術が確立されているためです。凍結時の食材へのダメージに新しい知見が加わり、技術が進化してきました。冷凍技術の目標は、凍結前と同じ状態に復元すること、さらにはそれ以上にすることです。近年では冷凍食品の解凍法によって品質が大きく変わることも分かってきました。食材ごとに最適な冷凍法や解凍法も異なるため、最適な方法を学ぶことが重要です。

冷凍のメリット

冷凍食品はマイナス18℃以下で保存しますが、食材を冷凍する前後で成分が変化します。冷凍のメリットは、冷蔵温度域に比べてマイナス18℃以下では化学反応や酵素反応が極端に遅くなるため、栄養素、色調、味、香りを長期にわたって商業的品質を保持できることにあります。例えば、ほうれん草は冷蔵庫に入れておくと一週間ほどで栄養素が10%程度に減少しますが、冷凍すれば数週間、数カ月と、冷凍前の状態を保つことができます。

食材ごとの最適な冷凍・解凍法

高級マグロなど高鮮度の魚類を解凍する際は、氷水解凍が良いです。一般的には流水解凍も知られていますが、これだとドリップが出てしまい、うま味や美味しさが逃げてしまいます。実はこの氷水解凍を開発したのは私で、宮城県気仙沼でマグロ漁業者に伝えたことがきっかけで徐々に全国に広まったようです。ぜひもっと広まってほしいです。豚肉しょうが焼きなどの肉類は下味冷凍すると保管中の変化が少ないです。和食の椀物に使用するあさり、シジミ等の貝類は氷漬け冷凍が良いです。シジミの場合、乾燥を防ぐことができ、冷凍するとオルニチン成分が増加し、より栄養価が高まります。生の大根、ジャガイモなどは冷凍解凍すると、機能成分であるGABAが増加することも分かってきました。タマネギのソテーなどは冷凍したタマネギを使用すると調理の手間が格段に短縮されます。このように、冷凍のメリットは多岐にわたります。

グレージング・氷漬け冷凍

保管による冷凍焼けや酸化を防ぐ手法として、グレージングや氷漬け冷凍(注水凍結)があります。冷凍した食材が食品パッケージの内側の空気に触れると、食材の水分が蒸発しやすくなり、乾燥してしまいます。これを防ぐには、隙間がないようにパッケージングすることが重要ですが、あさりやしじみなどの貝類は空間ができやすいため、注水による冷凍がより効果的です。

冷凍技術の新しい考え方(パラダイムシフト)

原料から最終解凍品までを冷凍のシステムとして捉えた場合、ブランチング操作を省略し、他のプロセスで補う手法も冷凍技術の選択肢に取り入れることができます。

例えば、素材・冷凍用調理の段階であるブランチングを行わなくても、貯蔵時の温度をより低温にすることで酵素の働きを抑えることが可能です。また、解凍・調理段階で一気に加熱することで、酸化酵素が働く時間をなくし、冷凍生野菜でも遜色なく調理することが可能です。冷凍技術の新しい考え方として、「品質・美味しさ=素材・調理×凍結×貯蔵× 解凍・調理」というセットで考えることが重要です。冷凍食品については貯蔵温度の重要性が古くから認識されており、TTT(Time-Temperature Tolerance)の概念があります。袋の中で外側が温度変化すると、食品は乾燥し、油焼けや酸化が進みます。これが冷凍臭の原因です。菌による腐敗ではありませんが、これを防ぐことが重要です。

氷漬け冷凍食材の解凍方法

氷漬け冷凍をした食品は、氷ごと水を張った中に漬け込んで解凍します。こうすることで、解凍された食品の温度は0℃前後となるため、食品は氷水解凍と同様の状態となり、氷結晶の粗大化や酵素反応による組織の変化が起こりにくくなります。凍結過程装置に関する結論としては、保管庫を凍結に利用することは避け、凍結装置を利用すべきです。また、品質や美味しさを求めるなら、新機能の凍結装置にコストをかける必要はありません。急速凍結で氷結晶を小さくしても、それほど品質に影響を及ぼさないためです。凍結装置に求めるものは、生産性、処理能力、汎用性です。食品冷凍に関する科学的根拠に基づいた情報発信の拠点形成、食品冷凍技術のプロフェッショナルを育成することで、今後も農水産物および加工食品の冷凍品の品質向上と流通拡大を図り、広く食品の冷凍に関わる業界の発展に寄与し、新しい食の未来を創出していきたいと考えています。

〈講師プロフィール〉
鈴木 徹(すずき とおる)
1956年東京都生まれ。東京水産大学(現・東京海洋大学)食品工学専攻修士修了。日本酸素株式会社(現・太陽日酸株式会社)で冷凍食品の研究開発、および低温利用機器・システムの研究開発に従事。東京大学大学院農学研究科農芸化学専攻博士課程(食品工学研究室)を経て、1988年より東京海洋大学食品冷凍学研究室助手、1996年より同助教授を経て、2004年から同教授に。2019年より東京海洋大学サラダサイエンス(ケンコーマヨネーズ株式会社)特任教授、2024年より名誉教授。2023年3月に一般社団法人食品冷凍技術推進機構を設立し、代表理事に就任。

この記事を書いた人

nichibenkyou